ギャラリーK 美の起源展 楠本恵子さんの絵を見て

楠本恵子
「アマビエ」


ギャラリーKが昨日から開けて「美の起源」展が始まった。そのお守りとも言うべし、作品がある。

楠本恵子女子の作品があった。しばらく私はじっと見た。黄色が全体に広がり、立体的に見せるために様々な線が引かれ色が塗り込まれていく、ピカソの創始したキュービズムを体現していた。ピンクのマッスが、もしくは色面がアマビエを表す図になって、口元のヒラヒラした部分がこの絵を説明する形、またはエチュードであろう。

本来、楠本恵子さんは愛憎をテーマに作品作りをしていて、とても感性的に鋭く、豊かな人物である。今回はアマビエをテーマにする時にこの時期のコロナの禍を慰めるため、鎮めるための祈りとも言うべし、そのような感性と時代認識が一つになってこの絵を描かしめたのであろう。

黄色は昔、ある人が言っていて衝撃があった。「黄色は狂気の色だと言っていた。そして、それは神聖な色にもなりうる。そのような表裏一体の意味がある。」

確かにそうかもしれない。黄色は神聖にも捉えられる美術史的な認識もある。そして狂気の意味もピカソなどがよく多用し精神に衝撃の一打撃を与える爆弾のような明るさだ。それを使うことで絵により深みと広がりをもたらす魔法の色である。

楠本さんの絵をいくらか観てきていますが、黄色を使うことが多い、ほとんど黄色を基本にして絵作りの得意な色にまで仕立て上げている。暴力にもなる、または神聖にもなる色を、この黄色という色を使いこなしている。それは暴れ馬を乗りこなしているかのようだ。

また、絵をじっくり見て、細部まできちんと描いてある。つまり、楠本恵子さんは手抜きの仕事はできない。完成度が高い、しかもアラが全然ない。完璧にまで仕上げる姿勢はどんな仕事でも大事である。

村上春樹という小説家がいますが、彼が小説を書く時に大事にしているのは「手を抜かない」ということだった。それで後世に残るのような名著を書くつもりで細かい仕事も大きな展開な物語もしっかりと書くようです。


楠本女史もそのような態度で、制作に挑んでいる。また、これは大事なことなのですが、絵を描く、アートをすることと、プライベートは切り離しているそうだ。制作中はまさに真摯に真剣に挑み芸術家らしい状態になると言っていて、それから離れると本当に普通の女史になってしまうと言っていました。

アートとプライベートな日常の生活を分けて、アートに狂わないようにして生活もしっかりしているそうです。アートで気が変になることはないし、それはどんなことでも大事に思います。プライベートな日常は日常で幸福に生きて、アートの狂気を引きずらない姿勢はとても大事だと思う。

仕事をしてすごい活躍したとしても、家でもその仕事モードで修羅のように家族と接してはやっぱり幸福とは言えない。仕事やアートを家庭に持ち込まないのはとても大事なことだと教えてもらった。

さて、作品の説明をしていきたいと思います。この作品は前述のように衝撃的であり、ショックが大きい。激しい色彩に、キュービスムの立体主義がその絵の全体を幻惑的にさせる。それは美の衝撃であると言えます。内的にも外的にも凄まじいエネルギーが放射している。アマビエは右から見るのと左から見るのはやはり印象が近て見える。ベスト鑑賞スポットは鑑賞者で選べるところがまた面白いし、それはキュビスムの特徴であるかもしれない。

つまり、絵が立体的に見えるということでもある。あと、仕事が丁寧で色も輝く感じで見ていて期待を裏切らない。心地い気持ちでこの絵を眺め、感動がハートにダイレクトに伝わってくる。

ああ、こういう絵もあるんだなと思った。このアマビエの図の作品にもまた人間の愛憎とか心のドロドロしたものが美に昇華しているところが画家の感受性、知性においてセンスを高めるものを私たちに教えてくれる。

やっぱり、仕事をする上で、手を抜かないということも大事だし、色、つまり元気の出し具合もセンスが必要で、センスは洗練された普段の生活を整えることがやっぱり必要なのだと教示される。そんな絵であります。

美の起源というタイトルの展覧会ですが、楠本恵子さんの出品はやはり生命の躍動ということを表現し、それ、生命の活力、愛、そういうものが美の起源と捉えていらっしゃることを学ばせていただきました。


そういう意味で重要な作品であると言えますし、生活者と芸術家の同時にやりながらも分けて、愛憎に関しても、強烈な色彩についても分けて日々を生きている立派な姿勢に僕も学ぶものがたくさんありました。

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